シンクロニズム戦艦の論 6 - 5 「百八十度回頭だ、、ガ、ガウを、木馬にぶつけてやる。」

〜キング・スピルバーグ vs キング・ツブラヤ〜　

『宇宙戦争』は、SF小説の殿堂であり、作者のH・G・ウェルズは社会学史にも名を残している。そのような貴重な作品も、映画界の王様スピルバーグにとってはウルトラシリーズの代替品であるようだ。よく見ると、トム・クルーズ演じる主人公は、軍隊も歯が立たない怪物ロボに徒手空拳で立ち向かい、これを撃退するという、東光太郎のような快挙を成し遂げる。確か「大阪で何体か倒した」というニュースを聞いた後の展開で、「なぜ大阪が出てくるのか」と六本木ヒルズの記者会見で聞かれたスピルバーグは、「大阪は、(地中から襲ってきた)ゴモラを倒した強い都市だから」と答えていた。

東光太郎は「ウルトラマンタロウ」の一話で、港湾クレーンを操縦して怪獣を追い払い、その勇気を買われてZAT入隊を果たす。『宇宙戦争』のトムは、港湾クレーンの操縦では右に出るものはいないという役柄であった。父親トムに反発している息子は、最強ロボの蹂躙から逃げていながら、突然戦いに目覚めて立ち向かうという、タロウによくあるエピソードを想起させる。まだ有名でなかったころのスピルバーグは、円谷プロダクションへ見学(参拝)に訪れていた。

「地底超特急西へ」

その制作プロの契約社員だった成田亨は、すぐれた思想を持って子供番組の美術デザインに取り組み、飛ぶ戦艦「ウルトラホーク1号」だけでなく、シリーズ第1作目(「新劇場版 : Q」みたいな)より、今でもまったく色あせることないメカ産物を届けてくれていた。ウルQ、10話に登場する「いなづま号」は、常識にとらわれない大胆なセンスで、奇をてらわず機能美に満ち、凄まじく印象的でオリジナリティーに溢れ、半世紀経った現在も容易には超えられない、究極的な車両デザインとなっている。

ところで、成田がデザインしたのはメカだけではない、カネゴンやバルタン星人(セミ人間)やエレキングなど人気のある怪獣や星人も、皆彼の手によるものだ。そして、もっとも大いなる遺産は「ウルトラマン」や「ウルトラセブン」という、ヒーローそのもののクリエイトである。ウルトラマンの表情が、「弥勒菩薩半跏思惟像」のアルカイック・スマイルから来ていることは有名な話で、インドで生まれた仏の教えがギリシャ美術と出会い、時をかけて古代日本に到達し、飛鳥時代に仏教芸術として花開いてから1500年近く、その微笑みは子供から大人に至るまで、とても大切に継承されている。

　「強そうでもあり、優しそうでもあり、それから静かでもあり」

　「ウルトラマンの顔には、集中と丸みとの矛盾があります」

　「悲しそうな顔をしたり、ぐっと決意のような顔をしたりする」

しかしテレビ局側から、無理くりカラータイマーというギミックをつけさせられ、仏像から遠のいたので、ウルトラセブンのデザイン時には、あらかじめ釈迦のように額飾り(白毫)をつけることになった。結果的に、意図していなかった「仏」に近づいた事は皮肉なことであるが、それもまた因縁だったのかもしれない。