シンクロニズム 戦艦の論 4-13「勤務は夜6時から朝6時、たまに8時迄、週に6日。7日の時もある」
次の出勤まで「八艘飛び」要約
時は70年代ニューヨーク。
夜闇の欲望をむさぼる酔客の“上から目線”に対し、
なすすべない新人タクシー運転手「トラヴィス」は、
超高層ビルの谷間にくすぶっていた。
多感な青年時代を海兵隊で過ごした彼は、
女性へのまともな声のかけ方もしらない。
場末の映画館で、もぎりのお姉さんに、
変態扱いされながらポルノを見て帰るのが日課だ。
ある日中、彼はオフィス街を流し、
白無垢の天使に出会う。
唐突に異常な破滅力を身につけたトラヴィスは、
選挙演説を終えた次期大統領候補を「エア襲撃」すると、
暗殺史上初めて、凶器による反抗の呪縛を乗り越えた。
そして、
空想から引きづり落とされた現実の銃弾は、
虐待をエスカレートさせる掃き溜めの売春宿を直撃し、
トラヴィスの助けた少女は自立への道を開けた――。
「夜になると、腐ったケモノがうごめき出す」
「スカンクや、プッシーや、バガーや、ヨタヨタのジャンキーどもだ」
「奴らを根こそぎ洗い流す雨はいつ降るんだ?」
「みんな、悪獣だ。」
恋する選挙戦。
「俺の人生に必要なのはきっかけだ、」
「自分の殻だけに閉じこもり、一生過ごすのはバカげている」
トラヴィスは選挙事務所で宣伝活動する、
クールビューティーに一目惚れする。
健康優良不良市民の彼は、回りくどいことはせず、
単刀直入にアプローチした。
一応、選挙ボランティアという体裁は整えているが、
候補者への関心がないことを、微塵も隠そうとしない。
高学歴の男たちに囲まれていた「ベッツィー」には、
無学で図々しい労働者が新鮮に映った。
しかし、最初のデートで誘った映画がまずかった。
いつも見ているポルノよりはマシだったが、
露骨な性結合がはじまると、ベッツィーは機嫌を損ねて帰ってしまった。
さらに、彼女の職場にまで押し掛けて暴れる、最低のストーカーぶりで、
「どうしてこんなゲス野郎が主人公?」と、観客さえ見放す展開を見せる。
後日彼は、偶然にも客となった「大統領候補」と、
空疎で上っ面な政治話をして、これを降ろした後、
売春宿から飛び出して来て、必死に助けを求める、
か細い「金髪少女」に遭遇する。
マチルダより一つくらい上だが、
汚れた裏社会で生活するには早過ぎる年齢だ。
最高権力を握ろうと、精力的に上昇する「候補者」と、
自由を剥奪されて堕ちていく「ロリータ」(ジョディー・フォスター)が、
大都会のタクシーを介して、一瞬だけ交錯する。
ターゲットの定まらなかったスコープが、
“熱源反応”を捉えた瞬間だった。
(テロリストか、ヒーローか)
連日勤務で使い道なく蓄えた労賃で、
44マグナムを含む大小4丁の拳銃と軍用ナイフを購入し、
過酷な戦場を堪えた強靭な身体を、さらに限界まで鍛え直した。
背中に大きな傷を負っていることは、
この時初めて発覚する。
「You talkin' to me?」
(「何か、俺に用か?」)
鏡の自分に拳銃を向け、一人ブツブツつぶやく様は、
サイゴンのホテルで、自身の映った鏡を手刀で叩き割った、
ウィラード大尉の危うさを秘めている。
その後、シークレット・サービスが警戒する演説会場を冷やかし、
宿代を払って少女アイリス(ジョディー)を買った。
逃がしてやろうというのに、アイリスはつれない反応をする。
ただの面倒な客になってしまい、苛立ちが頂点に達したトラヴィスは矛先を変えた。
頭をモヒカン刈り(セブンカット)に剃って、再び演説会場に現れた。
今度はM65フィールド・ジャケットの下で完全武装している。
わざわざ目立つように、剃りを入れたのは『七人の侍』への敬意だ。
案の定、候補者襲撃は失敗した。
あっさりアパートに引き返すと、アスピリンをバドワイザーで流し込み、
オールドマンのように頭を振って、いつものタクシーで売春宿へ向かう。
(以下ネタバレ)
今度ばかりはマジでキレた。
夜の街に巣食うクズどもを挑発し、三人と撃ち合いになった。
ゴキブリは始末したが、自らも至近弾を受け重傷を負った。
最後は自分の喉元に向けて、スミス&ウェッソンの引き金を引いた。
そこらに転がっていた拳銃は、どれも弾切れだったため、
血だらけの指をこめかみに当て空自決した。
駆けつけた警官とアイリスの前で、満足の笑みを浮かべながら。
__、どれほどか時間が過ぎ、狂気のドライバーは回復した、
凶悪犯としてではなく、少女を救い出した庶民の英雄として。
そして勤務を再開し、いつもの日常に戻ると、
あの時の天使が乗車してきた、ふられた時と違って、
ベッツィーの方が恋する目を向けていた。
だが、ニューヨークの棚田で、たくましく生きる百姓にとって、
身分違いの「お姫様」は、もはやどうでもいい存在だった。