シンクロニズム 戦艦の論 4-7「百姓には、種の良し悪しは分かったって、侍の良し悪しなんかわからねぇ」






七人まで「八艘飛び」要約


時は戦国。
崖上から「逆落とし」で来襲する、
野武士に対しなすすべない遠い昔の百姓は、
粗末な小屋に身を潜めていた。

ある日、彼らは山間の集落を出て、
七人の浪人たちに出会う。

唐突に「戦(いくさ)」の力を身につけた村は、
馬で半日の距離にある敵前線基地を夜討ちすると、
農村史上初めて、武力による支配の呪縛を乗り越えた。

そして、
敵ラスボスが命と引き換えに放った種子島の一撃は、
立ちふさがる七人目のサムライを貫き、
地方共同体は自立への道を開けた――。






「やるべし。」


「爺様、そりゃ無茶だ、おらたちは百姓だ、いくさのやり方なんざ知らねぇ」


「侍、雇うだ。」


「百姓が侍雇うなんて、そんなこと聞いたこともねぇ」


「おらぁ、この目で見ただよ、」

「おめぇらの生まれた村が焼かれた時のことだ、」

「この土地さ逃げてくる時に見ただ、」

「燃えていねぇのは、侍雇ったその村だけだった。」






七人の侍』。

出だしは、野武士の襲撃に怯える、
無力で無様な百姓衆の視点で描かれる。
彼らのセリフは聴き取りにくく、
本編を理解するのに、さ程重要ではないように思われる。

やがて登場する、一人目の侍から始まる場面は断然おもしろい。
各国の映画やドラマや演劇やマンガや小説やアニメや特撮で、
繰り返し繰り返し、パクられ、コピられて来ているのは、
めっちゃ強いヤツ、頭の切れるヤツ、
まわりを和ませてくれるヤツ、世話好きなヤツと、
目的達成のために、個性的なキャラクターを集めるエピソードにある。



「他人を守ってこそ自分も守れる」


「おのれのことばかり考える奴は、おのれをも滅ぼす奴だ。」



七人のリーダーとなる浪人は人格者で、
始めは百姓の申し出を断るが、
自ら食べる米もない身分の低い者たちを哀れに思い、
彼らを戦闘集団に仕立てて行く。

それだけで、ストーリーは完結するが、
さらに百姓の視点をかぶせることで、
戦争戦略の上位に存在する、
人類普遍の真実を暴き出すことに成功している。

このため、戦国を舞台にしているにも関わらず、
現代、未来のあらゆる時代に通用する国家思想を、
超弩級の娯楽作品として提供することが可能となった。
この場合、百姓は単なる農業従事者ではない。

近代においては、
大国に服属、朝貢することで、
なんとか生きながらえている軍事小国であり、

現代に直せば、
大銀行の貸し剥がし貸し渋りに泣く、零細企業のオーナーであり、
担当役人の胸先三寸で、許認可を見送られる、一介の申請者であり、
欲深いブラック企業で、最低賃金に甘んじている非正規労働者であるのだ。

支配するものは永久に力を持ち、
支配されるものは永久に力を削がれ続ける。
この関係を、たまたま「野武士」と「侍」と
びくびくするしか能のない「百姓」に置き換えただけだ。

この映画のテーマは、
村を守るボランティア侍の小気味良さにあるのではない。
見せかけの強さや、抗い難い弱さを通して、
身分やスタンスは違っても、やっぱり共通している人間の本質を、
ひとつの村を実験場として、展開することにある。


「良い城には、きっと隙がひとつある」


「その隙に敵を集めて勝負をする」


「守るだけでは城はもたん。」


公開された1950年代は、
労働者と資本家が決定的に対立していた。
監督アキラ・クロサワは戦時中こそ、国威発揚映画を撮っていたが、
戦後は、一貫して虐げられた者の目線で映画を作った。

中盤のアクション活劇は、
集団的自衛権行使に揺れる、核抑止力を持たない国家の、
取るべき道を示唆しているようにもみえる。
しかし最後の最後、オセロゲームの角があるコマで埋まると、
すべての色がひっくり変えるという、革命的構図になっている。

そのための布石がある。
百姓と侍との間に、身分の溝が立ちはだかった時、
板木を叩いて虚偽のアラームを発した、
七人目の三船敏郎のセリフだ。



「やい、お前達、いったい百姓をなんだと思ってたんだ?」


「仏様とでも思ってたか、ああ?」


「笑わしちゃいけねぇや」


「百姓ぐらい悪ずれした生き物はねぇんだぜ」


「正直面して、ペコペコ頭下げて嘘をつく、なんでもごまかす」


「どっかにいくさでもありゃ、すぐ竹槍作って落武者狩りだい」


「よく聞きな」


「百姓ってのはな、けちんぼで、ずるくて、泣き虫で、意地悪で、間抜けで、人殺しだぁ」


「ちくしょう、おかしくって涙が出らぁ」


「だがな、こんなケダモノ作りやがったのはいったい誰だ?」


「おめえ達だよ」


「侍だってんだよ」


「ばかやろう、ちくしょう」


「いくさのためには村ぁ焼く、田畑踏ん潰す、食い物は取り上げる、人夫にはこき使う、女あさる、てむかえや殺す」


「いったい、百姓はどうすりゃいいんだ!!」


「ちくしょー、ちくしょー、ちくしょー!」






「貴様、百姓の生まれだな。」








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