シン・クロニズム 映画の論 0 - 1 「分刻みの日常をキャスティング “ アウェイ ” し、本来の “ ホーム ” を取り戻す映画」






variety.com の記事を翻訳 〜 引き出しの奥から 〜  



キャスト・アウェイ』レビュー


Casting away the clutter that complicates life in an effort to rediscover what matters.
――“アウェイ”で奮闘、ハンクス。

「ハンクスの魅力的な役作りなしにこの映画の存在を想像することは難しい。すでに実績あるキャリアを積んでいるハンクスが、今回さらに高いレベルに到達した」
辛口度: ZERO




監督「ロバート・ゼメキス」と、スター俳優「トム・ハンクス」は大試練を経験(ドラマの内容と興行の両方で)したが、その全てにおいて成功した。


映画は『キャスト・アウェイ』、華麗な演技で映画界を背負うトップ俳優ハンクスが、絶界の孤島に取り残されたキャラクターを演ずる大胆で独自性の強いストーリーである。ディテールに凝った贅沢なプロダクションデザイン、そして迫力の視覚効果は物語的必然性から来る高揚シーンの不足を補って余りある。この冒険潭は批評家の強力な掩護射撃により「歴史に残る映画」としての地位を築くだろう (米国/20世紀フォックス、海外/ドリームワークス配給)。PG-13指定も大きなプラスである、子供はこの物語を現代版ロビンソン・クルーソーと関連付けるだろうが、より人生経験を積んだ観客層にとってのそれは哲学的な課題と受け取られるだろう。



キャスト・アウェイ』は、ただ1人の男の示唆的な波乱万丈の旅を細かに表現することで、誰にでも共通する人生テーマに迫っている。



その点でゼメキス-ハンクスチームの前作、1994年のオスカーを獲得した『フォレスト・ガンプ/一期一会』にテーマが似通っている。とはいえ、『フォレスト・ガンプ』が長い月日をかけ様々な場所を駆け巡っていたのに対し、これはひとつの場所に留まっており、時間的にも逼迫した制限があるという面で違いがある。



 製作も兼ねているハンクスは、野心的な「FedEx」のシステムエンジニアを演じている。スイス製の時計のように正確な彼の日常は、飛行機が墜落して孤島に置き去りにされたときに呆気なく崩れる。



物語は大きく4つのパートに分かれる。1995年に設定されている第1章で、チャック・ノーランド(トム・ハンクス)の、仕事とプライベートでの保守的な生活が見て取れる。出世を急ぐチャックは遠い都市--例えばモスクワ--にいきなり出張してしまい、愛する恋人のケリー・フレアーズ(ヘレン・ハント)から引き離されることになる。FedExの飛行機内にいるチャックは、クリスマスイヴにケリーと過ごすのを待ちきれない様子だ、しかしマシントラブルが原因で、堪え難く恐ろしい航空事故に巻き込まれてしまう。このシーンは今まで映像表現できなかった程のもので、なにしろ歯を食いしばりたくなるようなリアルさなのだ。



第2章でチャックは、最も基本的な生存ニーズに立ち向かわざるを得ない状況に陥った。そこには、高度の問題解決ニーズには慣れている絶好調のスーパーキャリアが、「完全サバイバル」という最も緊迫した問題に直面するという皮肉が浮かんでいる。次の章は4年後になる。チャックは長いブロンドの髪でひげを生やし、引き締まった筋肉質になっている、半裸身のそれはまさしくターザンである。そして、食糧、水、寝所、火という4つの基本的な需要をマスターして後、今度は友達が欲しいという欲求に駆られ始めた。



ケリーへの想いはチャックが生き延びるために不可欠であるが、彼は「ウィルソン」とも奇妙な関係性を築いていた。「ウィルソン」とはバレーボールのことである、運命のフライトでFedExの小包に入っていたもので、岸に漂着していたのを拾ったのだ。重要な役割を演じたウィルソンは憂うつと孤独からチャックを救う、その「親友」はほぼ1時間の沈黙の後、チャックのおしゃべりをうながした。



たゆまぬ努力と強靱さで突き進むヒーロー『キャスト・アウェイ』は、ありがちな落とし穴を回避しながら賞賛に値する冒険を実行した。ストーリーはチャックを中心に置きながら一貫した視点を保っていて、その地から離れることは無い。したがって、ケリーや世間がチャックの災難に対し騒ぎ立てるシーンは登場しない。



チャックは奇跡の生還により、普通の文明生活に立ち戻るチャンスを与えられる。しかし彼は、打ち克つことのできた肉体的問題よりも過酷な、「かつてない程の精神的問題」に立ち向かうことになった。最終章は、従来のハリウッド的なエンディングからは逸脱しており新鮮である。



脚本は海難事故犠牲者の実話に基づいて書かれているが、脚本家のウィリアム・ブロイルス・ジュニアは非常に巧みな仕事でこれをこなした。そして、抑えたセリフと音楽が背景・感情描写に命を吹き込んでいる、最もメロディックな旋律は全体の90分間は聞こえている。



 映画は皮肉と絶妙なユーモアで満ちている。FedExのエグゼクティブとして、チャックは世界中の人を“コネクト”することに全力を尽くしているが、物語りの設定では逆に、全てから“ディスコネクト”される状況に追いやられる。その上、島の美しさと静寂さは、以前の乾いた喧噪の生活と対照的である。最も皮肉なのは、フィジーが多くの人には熱帯の楽園であるにもかかわらず 、チャックにとっては地獄のような刑務所となることである。



ゼメキス監督は、チャックが水を手に入れるために石でココナッツを割ろうと悪戦苦闘しようとした時、偶然にも石が割れてナイフを作ってしまったこと(最も笑える場面の1つである)を描写してフイルムにハートを入れた。



映画はテーマを掘り下げる鍵となる質問を幾度となく投げかける、「肉体面でサバイブすることを学ぶと、感情面または精神面ではどのようにサバイバルして行けるのか?」と。チャックは、岸に漂着したFedExの小包を次々に開けて行ったが、天使の翼が飾りについている小包だけは開けないと決める。なぜならそれは希望のシンボルとなったからで、生還後もずっと離さず抱えていることになる。



さらに問題提起的で考えさせられるのは、「チャックがすべてを失わなかったら、本当に重要なことを理解しなかっただろう」ということである。映画が極めてアカデミックで、形而上学的になるのはここである。つまるところ『キャスト・アウェイ』は、大切な事を再発見しようと奮闘する中で、人生を複雑にする余計な物をキャスティング“アウェイ”(排除)し、自分の本当の意味での“ホーム”を見つける映画なのである。



そしてこの章、最後のリールでぐっとフォーカスする。操舵首ゼメキスはここで演出の腕を再び冴え渡らせる。チャックの文明社会回帰後の舞台がとても輝かしく描かれ、エキサイティングな要素の少ない中盤の埋め合わせとなっている。



ハンクスの魅力的な役作りなしにこの映画の存在を想像することは難しい。すでに実績あるキャリアを積んでいるハンクスが、今回さらに高いレベルに到達した。ひと連なりのフィルムオーダー『キャスト・アウェイ』は、ハンクスの1年間の肉体的な変化を待ち、2パートを16カ月以上かけて撮影された唯一の映画かもしれない。



ドン・バージェスの落ち着いた撮影は、人生サーガの端正な見映えに貢献している。彼は、ロシアの撮影(「赤の広場」など)で、チャックの猛烈に忙しい様子を表現するために始終手持ちカメラで撮影している。対照的に、フィジーの島々とその荒々しさや特有風景は、チャックの静かな絶望を表現するために、固定して撮影されている。

 




監督:ロバート・ゼメキス
脚本:ウィリアム・ブロイルス・ジュニア
出演:
チャック・ノーランド:トム・ハンクス
ケリー・フレアーズ:ヘレン・ハント
配給:UIP映画



日本公開日: 2001年 2月24日





















 




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